周平春秋5 好きな道

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好きな道 ー川岸の道ー
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生まれた村のすぐそばを川が流れていて、橋を渡って川岸を右に行くと泳ぎ場があり、左に行くと広い川原の砂場があった。
その砂場も私たち子どもの遊び場のひとつだったが、夏の間はもっぱら泳ぎ場がにぎわい、砂場に行くことは稀だった。
 そこで砂場とそこに行く道は、夏の間は忘れられたようになり、砂場のまわりにも小道の上にも雑草がはびこった。
ことに砂場のまわりは丈高い草が密生し、その上を強靱な葛の蔓がはいまわって足の踏み場もなくなる。
そして草むらの奥には蛇や毒虫がいて、触れると皮膚がかぶれる灌木まであった。
 しかし夏が終わって水遊びができなくなると、私たちは今度は左手の小道を歩いて砂場に行った。
そういう日は、昼顔の蔓が横切っている道に斑猫が出て、心得顔に私たちの前に立って跳んだりした。
 私たちは砂場で遊び、その合間に草むらに入り込んで、野いちご野葡萄の実をさがした。
そのころになると草はやや枯れいろが目立ち、芒は穂をもち、葛は可憐な花をつけて、川原は全体に明るくなっている。
夏の間のまがまがしいほどの勢いは失せていた。
 そして季節がさらに移ると、川岸の道はめっきりさびしくなり、私たちの足もいつとはなくそのあたりから遠ざかるのだった。
好きな道と言われて心にうかんで来るのはその道ぐらいだが、川岸の道がいまもあるのかどうかはさだかでない。
                                                        『帰省』
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「私の好きな道」
そう問われて、思い浮かんでくるのは、子供の頃の通学路かな、私鉄沿線のコロッケ屋のある小道、学生時代の駅前の喫茶店のある道、
家の前の坂道かな。  
こんなタイトルで特集をくんだらオモシロイかも知れない。ぼくはもう『豆』春号のことを考えている。




by hontokami | 2018-01-13 16:04 | 藤沢周平 | Comments(0)

思い出すことといったら些細な事ばかり