堀江敏幸『坂を見あげて』 立ち止まることば 

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ぼくはこの文章を読んでもうなんども立ち止まって読み返しては感嘆し、まだ離れられないでいる。
テーブルの上で積み重なっていく過去。その過去は常に現代と触れあっている。
その上で、生活が営まれ、創作の時が重なる。
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日々の暮らしの道具に入り込んだ過去は、無理に現代にあわせなくても、
ふだんの暮らしのなかでもっと気楽につかってやったほうがいい。
テーブルならテーブルの表面を熱で変色させたり、お茶やコーヒーで輪染みをつくったり、
カッターで傷をつけたり、落書きをしたりしながら、
私たちは時間を積みあげていくのである。時の輪染みはついても当然の痕跡なのだら、
むしろそれらをいくつも重ねてやることによって、テーブルの表面のみならず空間そのものが熟すのだ。

(…… ジョルジュ・モランディー室内の壷や花瓶を好んで描いた画家ーのアトリエ映像から……)
ありふれた壷や壜が、然るべき場所に、然るべき計算に基づいて配置されている。
華美なところは徹底して排除され、生活が創作に直結している人だけに許されたなんとも言えない緊迫感が部屋中にみなぎっていて、
一分の隙もない。
ところが、モランディが絵の対象をならべた聖なるテーブルには、位置決めのためにつけられた、鉛筆の線が引かれているのだ。
創作の時が、生活の輪となって重なる。
過去はそこで、まぎれもない現在と厳しい円環をなして振り返ることを許さず、
私たちの目の前に、手に触れられるものとして存在しているのだ。
                                           ー輪になって重なる時間ー
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モランディのアトリエ風景はYouTubeで観ること出来ます。

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by hontokami | 2018-08-14 13:20 | Comments(0)